青柳いづみこ『六本指のゴルトベルク』岩波書店

 『ジャン・クリストフ』は音楽家を主人公にした音楽小説だが、同時に、音楽現象というものを見事に言語化した作品でもある。クラシックはよくわからないから、とか長くてむずかしそうだから(たしかに……)という理由でこの書を遠ざけるのは、人類がつくりだした富のうちでもっとも豊かなものを知らずにすませることになるだろう。  p.239(「29 あの瞬間が……」より)