東直子『薬屋のタバサ』新潮社

「だけどさ、死んじまうからこそ、自分のかたちを残したがるんじゃないかと思ってね。残したがってるんだから、こうして自分が見つけたものくらいは、集めてるんだよ。ほうっておいたら、踏みつぶされたり、吹き飛ばされたり、影も形もなくなっちゃうだろう。なんだい、なんでそんな、驚いたような顔をしているんだい」
「いえ……」
「へんなことしてるって、思ってるね。つくづく思ってるね。ふん。すましたって、しようがないよ。生き物っていうものは、みいんな、へんてこりんなんだよ」  p.195

 わたしは、うなずきながら、遠くへなんて、と思う。行っても、行かなくても、かまわない。ただわたしたちが、ここに存在しているだけでそれでいい、と。  p.230