川上未映子「わたくし率 イン 歯ー、または世界」(『わたくし率 イン 歯ー、または世界』講談社 収録)

…(前略)わたしと私をなんでかこの体、この視点、この現在に一緒ごたに成立させておるこのわたくし!ああこの形而上が私であって形而下がわたしであるのなら、つまりここ!!この形而中であることのこのわたくし!!このこれのなんやかや!あんたら人間の死亡率。うんぬんにうっわあうっわあびびるまえに人間のわたくし率こそ百パーセントであるこのすごさ!ああ!わたしはいまや、なんでか不快であったわたくし率がなんでか愉快でたまらん気持ちになって来た!ああこれこそ!正味よ!あんたらは何が何をするんが人生やって思ってんねん、これは大事なことやねん、これが私の問題ねん!  p.82

…(前略)わたくし率はなんもかわらん、蝶々がなんやの、私は奥歯や、わたくし率はぱんぱんで奥歯にとじこめられておる!!でもでも何がとじこめてんの、いったい何をとじこめてんの、なあ青木くん、ふたりで一緒に考えよう、あの雪国の、あの主語にその秘密のちょっとが隠されてるような気がしたん、あの文章は、どこ探しても、わたしはないねん、私もないねん、主語はないねん、それじたいがそれじたい、なあなあなあなあ素敵やろ、主語がないねん、こんな美しいことがあるやろか!だから青木くん、わたしにゆうてくれたんやろ、私に教えてくれたんやろ、なあ、一緒にかんがえようや、そうや、猫はひげやねんて、猫はひげなんですってね、猫はひげを私と決めたんですってね、猫のわたくし率はとっきんとっきん!ひげというひげに今みなぎっておる!  p.83