2008-11-01から1ヶ月間の記事一覧
地獄に落ちた亡者が、生前に犯した罪の所為で此処にいるならば、地獄で亡者を苦しめる鬼は、生前の亡者に怨みのある者。それが地獄の規則なら、これはまさに現実。 p.13 そうするうちに不思議と、その蜘蛛が何かの遣いに思えてきましてね。化身ってやつでし…
一日目 さて、何から書きましょうね。 この役に就いた抱負でも書けば宜しいですか。それとも生まれて初めて願いが叶えられたことに、感謝でもしましょうかね。 p.5
女は初めての男を忘れられない――というのは、男が作った伝説だ。初めての男は、踏み台なのだ。しかし、それは女だけの秘密である。男に言っても信じない。男は総じて、夢想家だ。 p.32 (「恋が苦手で……」より) 幸福はべたに甘いだけだけど、不幸はいろん…
そんなことでいいんですか?そんなことでいいんですか?そんなことでいいんですか? おそらくいいのだろう。嘘を言って人を騙さないとこの世の中を生きていかれないのだ。 そして騙される方もまた、嘘を嘘と指摘して周囲から遊離するのが嫌で、それを嘘と知…
まったく、うんざりだと思う。今見ているこのくだらないテレビ番組も、子どもの汚れた上履きも、夫の丸みを帯びた首も、鏡にうつる目尻のしわも。私はなんでこんなことに気付いてしまったんだろう。気付いてしまった自分にがっかりだ。 人は毎日生まれて、毎…
かなえはこの夜に、自分というものは自分でしかあり得ない、ということを悟った。たとえ自分で選択できなかったとしても、自分の気持ちだけは、他人に侵されないことを知った もちろん、そういうふうに意味付けできたのは、かなえがいろんなことを自分で選択…
繭子は振り返って、たんぽぽ産科婦人科クリニック、と書いてある黄色い看板を眺める。そして、縮図、と声に出して言ってみた。 p.78
一人になって困ることってなんだろう。こんなつまらないメールを返信してきた男がいなくなって困ることってなんだろうか? p.25
「えっ、なんで?」 と言ってしまった瞬間に、彼女は後悔した。男が別れると口に出したときは、すでにそれは決定されていることで、なにをどうしたって、くつがえされることはないことを彼女はよく知っていた。 「なんで、なんで?」 気持ちと言葉が必ずしも…
「セミが鳴いてる、と、言った」 「えっ、本当?」 孝太郎は耳を澄ませてみる。でもセミの声は、ぜんぜんきこえなかった。防音ガラスが二重になっているし、このあたりは緑が少ない。でも、もちろん外ではセミが鳴いているだろうと思う。 「鳴いてるよ」兼治…
彼女は、誰もいない隣のベッドを見た。そして、あることに気が付いた。そこは確かに静かだったけど、昨日までのほうが、もっとしんとしていたのだった。あの女の人がいたほうが、静寂だった。今は、ただの空っぽのベッドだ。おかしいところなんて、ひとつも…
アザミはそう答えながら、大人な返答をしている自分に我ながらゆるい違和感を覚えた。 p.133 5行目 なんであたしはこんなに自分のことがわからんのやろう。 p.133 15行目 「あたしの家のことなんか言い始めたらきりないしさ。それもあるし、なんやろ、友達…
みんな出て行ってしまった。閑散としたスタジオの真ん中に置かれたパイプ椅子に座って、アザミは、ひっぱたかれた頬が今ごろひりひりと痛みはじめるのを感じていた。 p.3
どうして菓子屋に生まれたのに、ここまで向いていないのだ?いや生まれというより、菓子作りは栄吉がやりたい夢であった。なのに、いかに必死になっても、どうにもならない。努力が、気持ちが、見事なばかりに空回りしていく。 p.193 「いっちばん」、「い…
二人の姿を見て、心底ほっとしたのだ。何だかお菓子を貰ったちいさな子供のように、嬉しい。若だんなは兄や達の着物の端を、きゅっと強く掴んだ。 p.149
「若だんなは栄吉さんが三春屋を離れて、寂しいんですよぅ」 「松之助さんも、嫁御と新しい店に行ってしまったし」 「だから、我らが慰めなくては」 「だからだから、若だんなの為に、お菓子を一杯用意しなきゃ!」 p.15
……あなたもカレンも、ずっと踊り続けていました。でも志摩子さんはあの少女とは違う。カレンは呪われて踊っていたが、あなたは自分の意志で踊っていたんです」 p.299
「だけど依頼人は、犯人を特定できるだけの情報を自分が持ってないからこそ、ここに調査を依頼しに来るんだよな。情報が足りてたら最初から安楽椅子探偵の出番はないし、かといって足りてなければ探偵も情報不足で推理はできない。考えてみれば矛盾してるよ…
宗生 「わしがイライラしとったんは胃腸の調子がおかしかったからや!」 若月 「知らないよそんなもの!家に帰らせろ!」 宗生 「あんたには親を犠牲にして申し訳ないって気持ちがないんか?」 若月 「あんたには挫折した娘をいたわるって気持ちがないんか?…
伊坂 そうですね。斎藤さんがいなくて、その曲が存在しなかったら僕はたぶん、今のような小説家にはなっていないでしょうね。 p.36 言ってしまうと、なんかベタベタで嫌なんですけど、出会いは雨のバス停でした。 斎藤 おお、雨のバス停! p.37 伊坂 そう…
「たしかに、その言葉は現在使われていない。けれども、言葉が消えても関係性は続くんだよ。泉水子には選択権があって、われわれにはない。わきまえろというのはそういう意味だ」 深行は泉水子を指さした。 「これが女神だからとか何とか、そういうトンデモ…
新学期になって日の浅い、四月下旬のことだった。 p.5