椰月美智子「甘えび」(『枝付き干し葡萄とワイングラス』収録 講談社   

 まったく、うんざりだと思う。今見ているこのくだらないテレビ番組も、子どもの汚れた上履きも、夫の丸みを帯びた首も、鏡にうつる目尻のしわも。私はなんでこんなことに気付いてしまったんだろう。気付いてしまった自分にがっかりだ。
 人は毎日生まれて、毎日死んでゆく。どうなっているのよ、まったく。それでも時間は過ぎていくんだから。  p.136〜137