2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

墨谷渉「パワー系181」(『パワー系181』集英社 収録)

目を閉じて測量男が現れてから帰るまでを通しで頭の中で繰り返した。リカのことをパワー系だ、と測量男は言った。パワー系。 p.33 リカは「パワー系個人クラブ・リカのお部屋」と紙に書いてみた。お部屋?なんかこれが性的サービスを連想させるな、良くない…

墨谷渉「パワー系181」(『パワー系181』集英社 収録)

パワー系181作者: 墨谷渉出版社/メーカー: 集英社発売日: 2008/01/05メディア: 単行本 クリック: 15回この商品を含むブログ (9件) を見る 女は五階と二階とを既に三回往復していた。 p.7

有川浩『阪急電車』幻冬舎

「……あんた、結婚準備中に浮気したあげく、生でやったの!?」 (「宝塚南口駅」 p.24) やだな、と翔子は小さな声で呟いた。 「いいもの見ちゃった」 恋の始まるタイミングなんて。――今きつすぎる。 (「宝塚南口駅」 p.30) その瞬間、こらえる間もなく…

有川浩『阪急電車』幻冬舎

阪急電車作者: 有川浩出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2008/01/01メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 211回この商品を含むブログ (381件) を見る 阪急宝塚駅は、梅田(大阪)へ直接向かう宝塚線と、神戸駅へ連結する今津線とが『人』の形に合流している駅…

小川一水『時砂の王』ハヤカワ文庫JA

「私は二千三百年後の世界から来た。だが、ここの未来からではない。多くの滅びた時間枝を渡ってきた」 彌与は息を殺して、男の話に聞き入った。 p.38 時の風はすべてを吹き散らし、時の砂はすべてを埋め尽くす。誰よりもそれらに身をさらしてきたのがOとい…

小川一水『時砂の王』ハヤカワ文庫JA

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)作者: 小川一水出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2007/10/01メディア: 文庫購入: 21人 クリック: 227回この商品を含むブログ (237件) を見る 「みよさま……みよさま!」 少年の叫びが木立の中を追ってくる。怒っているようでもあり…

綾辻行人『深泥丘奇談』メディアファクトリー

深泥丘奇談 (幽BOOKS)作者: 綾辻行人出版社/メーカー: メディアファクトリー発売日: 2008/02/27メディア: ハードカバー クリック: 16回この商品を含むブログ (65件) を見る この世には不思議なことなど何もない――とは、おそらく今この国で最も有名な古本屋の…

尾崎真理子『現代日本の小説』ちくまプリマー新書

現代日本の小説 (ちくまプリマー新書)作者: 尾崎真理子出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/11メディア: 新書 クリック: 10回この商品を含むブログ (20件) を見る 大江のノーベル賞受賞は九二年に中上健次、九三年に安部公房という純文学の支柱を亡くした…

ジョゼフ・ディレイニー『魔使いの秘密』東京創元社

まさかずっと泣いていた……?そう思ったら、自分が同じ立場だったらどうするか考えさせられてしまった。ぼくが魔使いで、アリスを穴に入れたとしたら?同じことをしていただろうか。 p.312 「違う!そんなふうになる必要なんてない。おまえには選ぶことがで…

ジョゼフ・ディレイニー『魔使いの秘密』東京創元社

魔使いの秘密 (sogen bookland)作者: ジョゼフディレイニー,佐竹美保,Delaney Joseph,金原瑞人,田中亜希子出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2008/02/29メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (8件) を見る 寒くて暗い十一月の晩だった。 p…

石持浅海『君の望む死に方』ノン・ノベル

この週末に自分は殺人者となる。 p.38 「動機というのは、他人がどうこう言うべきことではないと思います。恨みの重さ、憎しみの重さ、罪の重さ。皆個人個人で秤を持っています。そしてその目盛りは、人によって違うのです。違う目盛りで他人の心を測ること…

石持浅海『君の望む死に方』ノン・ノベル

君の望む死に方 (ノン・ノベル)作者: 石持浅海出版社/メーカー: 祥伝社発売日: 2008/03メディア: 新書 クリック: 36回この商品を含むブログ (94件) を見る 静岡県熱海市消防本部に一一九番通報があったのは、一月十三日の午前七時四十七分だった。 p.9 「膵…

岸田るり子『ランボー・クラブ』東京創元社

今の菊巳には、過去も未来も家族の愛情も何もかもが不確かなものになってしまっていた。どちらにも、はっきりとした確証が得られない。まるで空中をさまよっているようだ。 p.187 「僕は自分が誰なのか、それを知る権利があるはずです。でしょう?あなたが…

岸田るり子『ランボー・クラブ』東京創元社

ランボー・クラブ (ミステリ・フロンティア)作者: 岸田るり子出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2007/12メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 4回この商品を含むブログ (12件) を見る 菊巳はプリンターの唸るような機械音を聞きながら、パソコン画面の向こ…

石持浅海『温かな手』東京創元社

二十数年生きてきて、まさか自分が人間以外のものと関わり合いになるとは、思ってもみなかった。 p.10(「白衣の意匠」より) でも北西の手は温かかった。それは、人間としての確かなぬくもりだった。 わたしは、その温かさを強く握りしめた。 p.234( 「…

道尾秀介『ラットマン』光文社

「この文脈効果に、命名効果ってのが重なると、幽霊はよりはっきりとしたかたちを持ってくる」 「命名効果ってのは?」 谷尾が真剣な顔を向ける。こうしたところ、彼はまったく屈託というものがない。 「たとえばこの絵で言うと、ラットマンだけを単独で見た…

道尾秀介『ラットマン』光文社

ラットマン作者: 道尾秀介出版社/メーカー: 光文社発売日: 2008/01/22メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 76回この商品を含むブログ (142件) を見る 「――で?」 iPodのイヤホンを左右の耳から抜き取り、姫川亮は顔を上げた。 p.13 感想はこちら。

黒史郎『夜は一緒に散歩しよ』メディアファクトリー

気がつくと千秋は横にいて、卓郎を見上げていた。千秋の足もとで開かれているお絵かき帳からも、青い顔の女が見上げていた。 p.190 美樹の後ろには、お絵かき帳を持った千秋が笑いながら立っていた。 p.264

黒史郎『夜は一緒に散歩しよ』メディアファクトリー

夜は一緒に散歩しよ (幽BOOKS)作者: 黒史郎出版社/メーカー: メディアファクトリー発売日: 2007/05/16メディア: 単行本(ソフトカバー) クリック: 6回この商品を含むブログ (21件) を見る 千秋が奇妙なものを描くようになったのは三沙子が死んでからまだ一…

フィリップ・リーヴ『ラークライト』理論社

必死だったから気持ちを集中できたんだと思います。もう一度やれっていわれてもぜったいにできません。だって、若い娘がこんなはしたない(はしたないに傍点)こと、とても……」 p.409 大博覧会が開催されんとしている黄金期の1851年のヴィクトリアン朝。錬…

フィリップ・リーヴ『ラークライト』理論社

ラークライト―伝説の宇宙海賊作者: フィリップリーヴ,Philip Reeve,David Wyatt,松山美保出版社/メーカー: 理論社発売日: 2007/08メディア: 単行本 クリック: 7回この商品を含むブログ (7件) を見る 今から思えば、巨大蛾のポッターモスが目の前にあらわれた…

円城塔「つぎの著者につづく」(『オブ・ザ・ベースボール』文藝春秋刊より)

発表の機会に恵まれぬ良作以前に、発表されたにもかかわらず、読まれる機会のないままに流れ去っていく本たちが、私の想像の中から今も忘却され続けている。 p.112 書評氏から私に提示されているものは、ただR氏と私がそれぞれ勝手に書き出したものの類似性…

円城塔「つぎの著者につづく」(『オブ・ザ・ベースボール』文藝春秋刊より)

「ベコス。 こうして私たち二人は話しはじめる。 p.83

円城塔「オブ・ザ・ベースボール」(『オブ・ザ・ベースボール』文藝春秋刊より)

手札にエースが四枚。誰だってこれは負けないと思う。 p.7

井上荒野「夜を着る」(『夜を着る』集英社 収録)

どうするべきなのか、どうしたいのか決められないまま、結局光二と同じ嘘バリアーを張りめぐらせて、どんなに打ち明け合っても、じつはちっとも触れ合っていないのかもしれない。 p.135

井上荒野「I島の思い出」(『夜を着る』集英社 収録)

「あの人はよくないわよ」 母は言った。 「そうかな」 「そう。奥さんがいるからとかそういうんじゃないわよ。なんかねえ、電話で喋った感じが、だめだった」 「そう?」 「そうよ」

井上荒野「終電は一時七分」(『夜を着る』集英社 収録)

「終電は一時七分電よ」 え?と五郎はききかえした。 「終電は一時七分。下りよ。上り電車には、もう間に合わない」 p.96〜97

井上荒野「映画的な子供」(『夜を着る』集英社 収録)

ただ、両親が「映画的」と口にするとき、彼らがほしいのは映画的な子供なのだ、ということが伝わってくる。つまり、自分がちっとも映画的な子供じゃないらしいことが。 p.39〜40

井上荒野「アナーキー」(『夜を着る』集英社 収録)

夜を着る作者: 井上荒野出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2008/02/18メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 4回この商品を含むブログ (22件) を見る 「これ、今日二度目ね」 と彩が言う。 「今日は何でも二度目の日なのね」 p.23 痛みや、ほかの何かで朦朧…

恩田陸『猫と針』新潮社

タカハシ:(大きく頷いて)最近特に、加害者と被害者は紙一重で、めまぐるしく立場が入れ替わるからね。気をつけないと、今自分がどっち側なのかすぐに分らなくなる。本人は毎日ボーッとおんなじ場所に立ってたつもりなのに、昨日は被害者で、明日は加害者…