岸田るり子『ランボー・クラブ』東京創元社

 今の菊巳には、過去も未来も家族の愛情も何もかもが不確かなものになってしまっていた。どちらにも、はっきりとした確証が得られない。まるで空中をさまよっているようだ。  p.187

「僕は自分が誰なのか、それを知る権利があるはずです。でしょう?あなたがたは、僕がこんなに知りたがっている僕自身のことを教えてくれない。  p.197

「人間は何かに心を奪われると、ありのままの現実が見えなくなり、更には過去の自分まで捏造したくなるそうなんです」 
「何かに心を奪われている人っていうのは、君のお母さんのこと?」
「ええ。母はいったい何に心を奪われているのでしょうか?何かをごまかして生きている、そんな気がするのです」  p.215

真実というのは案外単純なところにあるものだ。色々な状況が折り重なることで、人の目は惑わされ、真実がどこかへ隠れてしまう。  p.276