2008-04-01から1ヶ月間の記事一覧
「ねえ、幸せじゃなくちゃいけないなんて、俺はすっげえ傲慢だと思うよ」 勝てなくて悔しくても、幸せじゃなくて悲しくても。 それさえ忘れなければ、きっと大丈夫。蝉の音を聞きながら、悟は思った。 p.170
蝉時雨の中で、悟は目を覚ました。 p.3
新世界より (下)作者: 貴志祐介出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/01/24メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 109回この商品を含むブログ (173件) を見る 「世の中には、知らない方がいいことって、たぶん、いっぱいあるんだと思う。真実が、一番、残酷な…
この間、時間を見つけては、過去の歴史をひもといてみたのだが、再認識させられたのは、人間というのは、どれほど多くの涙とともに飲み下した教訓であっても、喉元を過ぎたとたんに忘れてしまう生き物であるということだった。 p.7 もう少し、この場所にと…
深夜、あたりが静かになってから、椅子に深く腰掛けて、目を閉じてみることがある。 p.6
私の求めるものは、この世にただひとつの、自分だけのものではなく、むしろ量産品、そこそこの年月、そこそこの数が出回って、使われるうち、ある型におさまってきた、その意味で、最大公約数的な品であるようです。 個性のあるものと付き合うには、拮抗する…
突然、自分はとても幸福な人間だという思いが、体全体に満ち溢れた。なぜだか胸のあたりから、温かいものが湧き出てきて止まらない。 白い猫が、澄んだ声で短く鳴く。 「きれいだなぁ」 その声に応えるように、志郎もつぶやいた。 不思議な感覚だった。 まる…
凍えた風に吹き散らされた無数の枯葉が、ザラザラとのたうつ音を立てながら、長い坂道を登ってくる。 p.3(プロローグ) 目の前には、長く緩やかな坂道が続いていた。 p.15
緩んじゃったんじゃないのという母の言葉を雨の音と合せずっと忘れないでおこうと決めた。 p.87 戸がぎいーと鳴って子どもたちが庭へ入ってきた時に間違って切り落したのは一つだけではなかったか。廊下へ出る前に自分が全て切ったのか。蕾を拾い集めた。桜…
「頼むぜ。車間距離ちゃんと取っておけよ。いいか、距離感なんだよ、人生は」 p.237 溝口さんが苦笑する。「それなら何か、自分探しの旅にでも行くのかよ」 「自分探し?探さないですよ。俺、ここいますから」どうして、そんな意味不明なことを溝口さんが言…
「実はお父さん、浮気をしていたんだ」と食卓テーブルで、わたしと向かい合っている父が言った。「相手は、会社の事務職の子で、二十九歳の独身で」 p.229
「あたしたちさ、もう酷いことされてんだよ?いいじゃん。井川、何されても文句言えないくらいのこと、したよ。アンタさっき泣いたじゃん!人のこと泣かせるような女、黙ってのさばらせといていいの?」 p.203 私たちはすがり合って、もたれ合って、生きて…
「自分の鼻って、ほんとは見えないんだよね」 夫は、意外なことを言った。私はなぜだか、どきりとした。 p.117 さすが『FUTON』の作者!ゴーゴリ「鼻」に『鼻行類』、芥川の「鼻」までこうも見事に使うとは。最初から最後まで鼻鼻鼻、鼻のオンパレード。と…
それは、決して手を伸ばすことのできない、幻の光だった。まるで、ありふれた日常というものが、ある日突然に、いともあっけなく消え去るのだということを思い知らせるように。 p.199 ハッピーエンドでめでたしめでたしの明るいトーンの物語よりも、喪失の…
「今日、二人組の男が会社にやって来たよ。君のボタンを押すなって、忠告に来たみたいだ」 彼女は下を向いたまま、わかってる、というように頷く。 「君の背中にあるのは、何のためのボタンなんだ?押したら、いったいどうなるんだ」 p.115
我々が過去を語る上で拠り所とする、自らの「記憶」とは、果たして本当に確かな「過去の蓄積」なのだろうか、と。 p.30 底の知れぬ深い、深い穴のほとりに立って、私の記憶が次々に放り込まれてゆく姿を想像する。 その記憶の穴の奥底には、私の失われた恋…
「ええ。でも、お義母さんの唄、覚えておきたくって。いつかまた、鼓笛隊が来たときのために」 「そうかい……。そうだね、あんたが受け継いでくれるんだね」 p.20 台風じゃなくて鼓笛隊が上陸してくる世界なんて!なんて奇抜!鼓笛隊の襲来がとある家族にも…
赤道上に、戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。 p.7
階段を上がってすぐ左手の、表に面した小部屋に入ると、本箱のうしろから白い顔のフクロウが半分だけ顔を出しておれを見ている。 p.4 「ひとつの解答として、君が見たのは君自身の夢であって、今もまだその夢から醒めていないということも言えるよ」彼は微…
「ねえ。誰かが家の前で喧嘩してるよ」浴衣姿の妹がおれの書斎に入ってきて言った。 p.3
「血のめぐりの悪い男ね、相変わらず。あたしがそれを認めれば、認めたとたんに、あなたの身に危険がおよぶかもしれない。そんなことは考えてもみない?さっきあなたは、この物語は自分の人生とも関係があると言った。でもそれは言葉のうわっつらだけ。本当…
そのドアを押して私は中へ入った。 p.5
何げなく周囲を見回せば、そこには膨大な書物がわたしを取り囲んでいた。そうと気づいて歩き始めてみたら、いつもの図書館がまったく別の場所みたいだ。 『牛はなぜ草からミルクをつくるのか』 断然面白そうなのを見つけた。手にとって眺め、小さく息をつい…
近頃、わたしはいけてない。 p.5
封筒にも入っていなくて、ただのルーズリーフにたった四行、黒いボールペンで書かれていた。でも、十分俺を勇気づけた。 ちきしょう。岡野、めっちゃかわいいやん。 ちきしょう。兄貴、やっぱ俺の何倍も賢いやん。 p.263 「人生に疲れてへんの?」 「うーん…
ラブレターを代筆するという話はよくある。 p.4
「だからね、ふぅちゃん。三十怖い病は二十代にかかるはしかみたいなもんで、三十前になるとあせりまくるけど、心配することはないんだよ。三十過ぎてからだって、なんとかなるんだから。ね。ましてや、二十五が結婚適齢期のリミットだったのは昔話だ。おバ…
その昔、二十五歳は女の分岐点だった。 p.5(「1 三十怖い病」より)
クラリネット症候群 (徳間文庫)作者: 乾くるみ出版社/メーカー: 徳間書店発売日: 2008/04/04メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 38回この商品を含むブログ (72件) を見る 最初に思ったのは、夢遊病って、聞いたことあるけど、これがそうなのかなあって。だっ…
おまえは、自分自身と、そのこぞうと、全世界を破滅させることになるのだぞ……ひとえに、あやまった愛情のために」 ロード・ロスは、うれしそうにため息をついた。 「おお、このような時があるからこそ、何千年もの長くてたいくつな時をすごす価値があるとい…