高田侑『フェイバリット』新潮社
何げなく周囲を見回せば、そこには膨大な書物がわたしを取り囲んでいた。そうと気づいて歩き始めてみたら、いつもの図書館がまったく別の場所みたいだ。
『牛はなぜ草からミルクをつくるのか』
断然面白そうなのを見つけた。手にとって眺め、小さく息をついた。
こんなにも多くの本があるのに、わたしの見ていた本棚はなんて狭かったのだろう。 p.60(「第1話 オムライス」より)
まだわたし達が同じ制服を着ていた頃のことを思った。
就職の武器になる資格とか学歴とか、そんなものを手に入れることばかりに気をとられていた。
そんなことより先に、見つけておかなければいけなかったのだ。
お気に入りのことを。 p.64〜65(「第1話 オムライス」より)
「青いザリガニなんて釣れなくてもいいんだよ」
「え?」
「山下純は青いザリガニを釣ろうとしたから痛い目を見た。おかげでみんなが迷惑したんだ。僕自身、自分のやりたいことを見失うところだったよ。時間をかけて大切に守ってきたものを壊すところだった。青いザリガニなんて、気がついたら釣れちゃった、くらいでちょうどいいよね」
「うん。そう思う」 p.188(「第3話 青いザリガニ」より)
「ママは、大好き!」 p.240(「第4話 フェイバリット」より)
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