2008-04-18から1日間の記事一覧

伊坂幸太郎「残り全部バケーション」(『Re-born はじまりの一歩』実業之日本社 より)

「頼むぜ。車間距離ちゃんと取っておけよ。いいか、距離感なんだよ、人生は」 p.237 溝口さんが苦笑する。「それなら何か、自分探しの旅にでも行くのかよ」 「自分探し?探さないですよ。俺、ここいますから」どうして、そんな意味不明なことを溝口さんが言…

伊坂幸太郎「残り全部バケーション」(『Re-born はじまりの一歩』実業之日本社 より)

「実はお父さん、浮気をしていたんだ」と食卓テーブルで、わたしと向かい合っている父が言った。「相手は、会社の事務職の子で、二十九歳の独身で」 p.229

豊島ミホ「瞬間、金色」(『Re-born はじまりの一歩』実業之日本社 より)

「あたしたちさ、もう酷いことされてんだよ?いいじゃん。井川、何されても文句言えないくらいのこと、したよ。アンタさっき泣いたじゃん!人のこと泣かせるような女、黙ってのさばらせといていいの?」 p.203 私たちはすがり合って、もたれ合って、生きて…

中島京子「コワリョーフの鼻」(『Re-born はじまりの一歩』実業之日本社 より)

「自分の鼻って、ほんとは見えないんだよね」 夫は、意外なことを言った。私はなぜだか、どきりとした。 p.117 さすが『FUTON』の作者!ゴーゴリ「鼻」に『鼻行類』、芥川の「鼻」までこうも見事に使うとは。最初から最後まで鼻鼻鼻、鼻のオンパレード。と…

三崎亜記「同じ夜空を見上げて」(『鼓笛隊の襲来』光文社 より)

それは、決して手を伸ばすことのできない、幻の光だった。まるで、ありふれた日常というものが、ある日突然に、いともあっけなく消え去るのだということを思い知らせるように。 p.199 ハッピーエンドでめでたしめでたしの明るいトーンの物語よりも、喪失の…

三崎亜記「突起型選択装置」(『鼓笛隊の襲来』光文社 より)

「今日、二人組の男が会社にやって来たよ。君のボタンを押すなって、忠告に来たみたいだ」 彼女は下を向いたまま、わかってる、というように頷く。 「君の背中にあるのは、何のためのボタンなんだ?押したら、いったいどうなるんだ」 p.115

三崎亜記「彼女の痕跡展」(『鼓笛隊の襲来』光文社 より)

我々が過去を語る上で拠り所とする、自らの「記憶」とは、果たして本当に確かな「過去の蓄積」なのだろうか、と。 p.30 底の知れぬ深い、深い穴のほとりに立って、私の記憶が次々に放り込まれてゆく姿を想像する。 その記憶の穴の奥底には、私の失われた恋…

三崎亜記「鼓笛隊の襲来」(『鼓笛隊の襲来』光文社 より)

「ええ。でも、お義母さんの唄、覚えておきたくって。いつかまた、鼓笛隊が来たときのために」 「そうかい……。そうだね、あんたが受け継いでくれるんだね」 p.20 台風じゃなくて鼓笛隊が上陸してくる世界なんて!なんて奇抜!鼓笛隊の襲来がとある家族にも…

三崎亜記「鼓笛隊の襲来」(『鼓笛隊の襲来』光文社 より)

赤道上に、戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。 p.7

筒井康隆『ダンシング・ヴァニティ』新潮社

階段を上がってすぐ左手の、表に面した小部屋に入ると、本箱のうしろから白い顔のフクロウが半分だけ顔を出しておれを見ている。 p.4 「ひとつの解答として、君が見たのは君自身の夢であって、今もまだその夢から醒めていないということも言えるよ」彼は微…

筒井康隆『ダンシング・ヴァニティ』新潮社

「ねえ。誰かが家の前で喧嘩してるよ」浴衣姿の妹がおれの書斎に入ってきて言った。 p.3