作家な行

西加奈子『きりこについて』角川書店

皆、不味いものをこの世で一番美味しい、とまで思えた「うっとり」していた子供時代が、懐かしいのである。 そして、お酒の力を借りないと、馬鹿らしい一言に大笑いすることが出来なくなってしまった大人の自分を、少しのセンチメントをもって、思い返すので…

西加奈子『きりこについて』角川書店

きりこは、ぶすである。 p.5

長嶋有『ねたあとに』毎日新聞社

今、我々が皆この世からいなくなったら……。将来ここを発掘し、この卓を発見した考古学者は“分かる”だろうか。 p.32(その一 ケイバ) 不意に昨年のことを思い出す。同じコタツの同じ位置でコモローが放った言葉を。 「俺が寝た後に、皆がものすごく楽しい遊…

長嶋有『ねたあとに』毎日新聞社

久しぶりに豊満な胸というものをみた。 p.5

仁木英之『胡蝶の失くし物 僕僕先生』新潮社

「無数の可能性があちこちに伸びている時の河をあてもなく流れている今が、楽しくて仕方ないんだよ。キミたちと一緒にね」 p.162(「天蚕教主」より)

夏石鈴子『今日もやっぱり処女でした』角川学芸出版

「だから熟女って三十代から上を全部含んでいるから、豊かな海というわけ」 「海なんですか」 「だって、艶子さんはそう言ったんだもの。しょうがないでしょ」 p.144 人物紹介しただけで終わってしまって、これから物語が始まるんじゃないかという印象を受…

夏石鈴子『今日もやっぱり処女でした』角川学芸出版

しゅぱーっと、乾いた音がして急行・中央林間行きが三軒茶屋で停まった。扉ががーっと開く。もう十時近いというのに、この駅で降りる人はいつも多い。朝も昼も電車は込んでいて、空いている時がない。 p.3

野中柊『恋と恋のあいだ』集英社

「悠ならできるよ。どこへでも行ける。きみは、好きなように生きられるひとだよ」 彼の言葉は、悠の耳に悲しく響いた。今は一緒にいられるけど、いつか、僕たちは離れ離れになるんだよ、と告げられたようで。そして、それはその通りなのだろう。おそらく、覚…

中島京子『エ/ン/ジ/ン』角川書店

「あっちゃんて、誰なんですか?」 「あっちゃんは、エンジンよ」 p.60〜61 おそらくとくに装飾的なフレーズではなかったのだろう。ある種の時間を言い表そうとすると、そんな言葉になるのかもしれない。人生の、まだ若い時期には、誰にとっても、ご褒美の…

中島京子『エ/ン/ジ/ン』角川書店

お父さんは、それはものすごいエンジンカだったのよ。 それだけを聞かされて少女は育ったという。エンジンカの説明を、母親はあまり上手にしてくれなかった。 p.5

中島桃果子『蝶番』新潮社

こうして無邪気に虹は主役を奪っていく。今は菓子から。時々ナメから。 理解して欲しくて理解してもらえるから、人は人前で涙を流すんとちゃうんか。 p.60 あたしや菓子が大人になってきたように、虹だって、ナメだって、大人になっていくんや。というか、…

中島桃果子『蝶番』新潮社 

その出来事は突然にやってきた。なんの前触れもなく。 p.3

長嶋有『電化製品列伝』講談社

レコードプレイヤーなんてのはもう、その物にあらかじめノスタルジーが織り込まれてしまっていて、読むのもイヤだ(変な人)。電動鉛筆削りやズボンプレッサー、そういうのを語りたいのだが。 p.77(吉本ばなな「キッチン」のジューサー) 家に新たな電化製…

仁木英之「飄飄薄妃」(『薄妃の恋』新潮社 より)

(そんな俺はどうしたいんだろう。先生とどうなりたいんだろう) p.121 12行目 (じゃあ先生は結局、俺とどうしたいんだろう。どうなりたいんだろう) p.121 19行目 「本当に心から想っているなら、信じられるはずです」 p.138 待つのはつらい。希望があ…

長嶋有『ぼくは落ち着きがない』光文社

議論がエキサイトした末に健太郎が放った「そんなに世界の亀山工場が好きなら亀山に住めよ!」という啖呵が望美のベスト賞で、「二人とも家で今使ってるテレビはなんなの」と最後に部長に聞かれ「ブラウン管です」と口を揃えて終わったのも美しい着地と思う…

長嶋有『ぼくは落ち着きがない』光文社

西部劇だ。 望美は思う。 p.5

中島京子「コワリョーフの鼻」(『Re-born はじまりの一歩』実業之日本社 より)

「自分の鼻って、ほんとは見えないんだよね」 夫は、意外なことを言った。私はなぜだか、どきりとした。 p.117 さすが『FUTON』の作者!ゴーゴリ「鼻」に『鼻行類』、芥川の「鼻」までこうも見事に使うとは。最初から最後まで鼻鼻鼻、鼻のオンパレード。と…