西加奈子『きりこについて』角川書店

皆、不味いものをこの世で一番美味しい、とまで思えた「うっとり」していた子供時代が、懐かしいのである。
 そして、お酒の力を借りないと、馬鹿らしい一言に大笑いすることが出来なくなってしまった大人の自分を、少しのセンチメントをもって、思い返すのである。  p.42

「世界で一番、猫がええんです。」  p.119

 自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらん。
 これは、きりこが自分自身に対しても、言いきかせた言葉だった。
「ぶすやのに、あんな服着て。」
 あんな言葉に、屈することはなかった。
 彼らは、「きりこ」ではない。きりこは、きりこ以外、誰でもない。  p.158

「世界は、肉球よりも、まるい。」  
 きりこの口の中は、今日も、この世の不思議に、満ちている。ぐるぐるぐる。  p.210