三崎亜記「彼女の痕跡展」(『鼓笛隊の襲来』光文社 より)
我々が過去を語る上で拠り所とする、自らの「記憶」とは、果たして本当に確かな「過去の蓄積」なのだろうか、と。 p.30
底の知れぬ深い、深い穴のほとりに立って、私の記憶が次々に放り込まれてゆく姿を想像する。
その記憶の穴の奥底には、私の失われた恋人が眠っているのかもしれない。
何処とも知れぬ土の下で、私の恋人は、ゆっくりと土に還ってゆく。 p.50
そのイメージする情景の物悲しさ、切なさ。透明な静謐な美しさ。喪失の痛み。大好きな作品ですとも。