岸本葉子『ちょっと古びたものが好き』バジリコ

 私の求めるものは、この世にただひとつの、自分だけのものではなく、むしろ量産品、そこそこの年月、そこそこの数が出回って、使われるうち、ある型におさまってきた、その意味で、最大公約数的な品であるようです。
 個性のあるものと付き合うには、拮抗する何かが、自分にもないと。無垢の一枚板を見て、そう思った。  p.42

 捨てることは、たしかにだいじ。でも、使うか使わないかの基準だけでは、生活はスリムにできても、寂寞としたものにならないか。その基準で割り切れない非合理的な部分も、人間にはあって、その部分を満たすためのものも、広い意味での「必要」では。その品の、本来の用はなさなくても。  p.105

 初めて読む岸本エッセイ。お母さまの思い出について語る個所では、自分の母親のことを思い出し重ねて見てしまって、胸が熱くなった。