田中慎弥「切れた鎖」(『切れた鎖』新潮社 収録)

 緩んじゃったんじゃないのという母の言葉を雨の音と合せずっと忘れないでおこうと決めた。  p.87

 戸がぎいーと鳴って子どもたちが庭へ入ってきた時に間違って切り落したのは一つだけではなかったか。廊下へ出る前に自分が全て切ったのか。蕾を拾い集めた。桜井と教会を上からぎゅっとつまんで引き寄せた恐竜の爪を剥がしたと思った。  p.105