2008-11-25 椰月美智子「と、言った。」(『みきわめ検定』収録 講談社) 2008 作家や・ら・わ行 作品た行 印象的なシーン 「セミが鳴いてる、と、言った」 「えっ、本当?」 孝太郎は耳を澄ませてみる。でもセミの声は、ぜんぜんきこえなかった。防音ガラスが二重になっているし、このあたりは緑が少ない。でも、もちろん外ではセミが鳴いているだろうと思う。 「鳴いてるよ」兼治さんが言った。 「え」 「うるさいくらいに鳴いてる」 孝太郎は、もっと集中して耳を澄ませてみる。 「アブラゼミ、ミンミンセミ、と、言った」 三人の間に、またさっきとは違う空気が流れ始めていた。 p.107