平安寿子『恋愛嫌い』集英社

 女は初めての男を忘れられない――というのは、男が作った伝説だ。初めての男は、踏み台なのだ。しかし、それは女だけの秘密である。男に言っても信じない。男は総じて、夢想家だ。  p.32 (「恋が苦手で……」より)

 幸福はべたに甘いだけだけど、不幸はいろんな味がする。酸っぱかったり、辛かったり、塩っぱかったり、苦かったり、ほんのちょっぴり甘かったり。そういうこと、知らないのね。  p.110 (「前向き嫌い」より)

 闘う阿修羅は、誰に守られていたのだろう。いや、あのお方は神様だから、一人で大丈夫なのよね。でも、わたしは違う。顔は阿修羅でも、心はクマノミよ。  p.216(「相利共生、希望します」より)

 「恋が苦手で……」喜世美、「一人で生きちゃ、ダメですか」翔子、「前向き嫌い」鈴枝、「あきらめ上手」喜世美、「キャント・バイ・ミー・ラブ」翔子、「相利共生、希望します」鈴枝、「恋より愛を」喜世美。
 通販業者の販売データ処理を請け負う会社勤務の翔子は26歳、スナック菓子メーカー販売促進部勤務のクールビューティー鈴枝は35歳、コンタクトレンズ売店勤務の喜世美は29歳。3人は見た目に年齢もばらばらながら、いつの間にか仲良くなったランチメイト。自分に正直なゆえに恋愛小説のヒロインのようになれない恋愛下手な彼女たち3人の恋愛模様を描いた連作集。