斎樹真琴『地獄番鬼蜘蛛日誌』講談社

 地獄に落ちた亡者が、生前に犯した罪の所為で此処にいるならば、地獄で亡者を苦しめる鬼は、生前の亡者に怨みのある者。それが地獄の規則なら、これはまさに現実。  p.13

そうするうちに不思議と、その蜘蛛が何かの遣いに思えてきましてね。化身ってやつでしょうか。全ての業の象徴に思えたのです。因果か、輪廻か、或いは業と呼べばいいのか。もしくは虚無か。
 それとも、それ等の全てを造り出した、力を持つ何かなのか。
 とにかくそういった類のものが、私を見物しに蜘蛛を降ろしてきたように思えたのです。  p.49

「光が生む光は、闇を生む。闇が生む光は、闇を包んで瞬く。其方はどちらの光が神仏を表すと思う」
「どちらでもどうでもいい。御託を並べるお偉いさんが、私は一番嫌いだ」 
 貴方の目に感情を宿そうとして言ったのですがね。
「それも答えの一つじゃ。全ては、それぞれの心が決める。その結果、全ては収まるところに収まるのじゃ」  p.183

「うだつのあがらない神仏に施して貰うようなものは、何一つありません。己の力で何かが何であるのかを掴み取ってみせましょう。そして教えて差し上げますよ。貴方が施せようと施せまいと、叶えられようと叶えられまいと。人間にとっての生きてゆけると思う何かが何であるのかを、必ず神仏である貴方様に突きつけてやりましょう。見抜く目のない無能な貴方に、かつて人であった私が」  p.185