太宰治『津軽』未知谷

津軽

津軽

 或るとしの(昭和十九年)の春、私は、生れてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかつて一周したのであるが、それは、私の三十幾年の生涯に於いて、かなり重要な事件の一つであつた。 (p.5 序章より)

 「ね、なぜ旅に出るの?」
 「苦しいからさ。」  (本編 p.31)