北森鴻『香菜里屋を知っていますか』講談社

香菜里屋を知っていますか

香菜里屋を知っていますか

 ほんの小さな日常の欠片があるか否か、それだけで人の幸福は左右される。わたしはこの店でそのことを教えてもらったし、逆に失う悲しみもまた実感しようとしている。  p.57(「プレジール」より)

 負けるな、くじけるな、立ち向かえ、その言葉の重みに耐え切れぬことが、人生のシーンにはままある。どうしてここで立ち止まってはいけないのか、後ろを振り返ったっていいじゃないか。ほんの少しだけ、しゃがんで地面を見つめるくらい、どうってことはない。そう思える人は幸せだし、本当の強さを身につけているといってもよいだろう。けれど多くの人は前を見つめられない自分を責め、立ち止まってしまったわが身を鞭で打つ。  p.62(「プレジール」より)

 「そう。だからいうのさ。今も工藤君は、どこかで料理の腕を振るっていることだろう」
 もちろんそうに決まっている。だからこそ香菜里屋の道具類をすべて処分したんじゃないか。新たに買い揃えるために。終焉はまた開始への約束でもある。そして工藤がいる場所、すなわち迷い家なのさ。心やさしきものが訪れるなら、そこは豊穣と幸福の源泉となり、  p.194(「香菜里屋を知っていますか」より)

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