竹内真『ワンダー・ドッグ』新潮社

…ワンダーの尻尾の動きも止まり、その視線は遠くの尾根に向けられた。
 周囲に遮るものがない山頂には、それまでの山道とは全く別の景色がある。ワンダーはそれを悟っているのかいないのか、地面に下ろされるとしきりに周りの匂いを嗅ぎ始めた。うろうろと歩き回って匂いを確かめたりマーキングしたりした後は、行儀よくお座りの姿勢をとって鼻を上げ、風の匂いを嗅いでいる。  p.62〜63

「おい、どうだ頂上の匂いは?」
 ワンダーは大きく尻尾を振って応えた。最高ですねと返事をしたみたいだった。
「やっぱりお前は、山に向いてる犬だったんだなあ」  p.63

 「頑張れ。これもワンダーのためだ」
 「…………」
 それには知草も口ごたえできなかった。  p.143

 夢みたいだった。傍らにお座りして源太郎を見上げているワンダーがいなかったら、何かの拍子に夢からさめてしまいそうな気がする。  p.262〜263

「あたし――もしもワンダーがいなかったら、どんな自分になってたんだろう」
 源太郎は答えなかった。ただ由貴に視線を向け、目が合うと二人して微笑みあった。
 二人とも、声に出して答える必要もないと分かっていた。ワンダーがいたから今の甲町源太郎がいて、今の知草由貴がいる。そのことだけで充分で、そのことだけで幸せなのだ。  p.281

 熊みたいな髭面の顧問の大地先生、学校にワンダーを連れてきた張本人甲町源太郎、ワンゲル部初の女性部員知草由貴、役職ゆえに反対する堂本教頭、、、。NHKあたりでドラマ化してくれないかな。