芦原すなお『ユングフラウ』東京創元社

どいつもこいつも、……そして、わたしも……。  p.284

「つまりですね、あとになって悩むのはいつだって女だってことです」
「ずいぶん古臭いこと言うわね」
「女はいつの時代も同じですよ」
 さよりがもっともらしいことを言う。しかし、さよりちゃん、少なくともあなたはそういう女ではないはずよ。  p.296

 あのとき、翠には加藤の言わんとしていることがよくわからなかった。だが、今はわかるような気がする。すごいことだと思う。だが、それは、まるで人間であることを超越しようとしているような、愛というものもまったくかえりみることなく、ひたすら現在という時の中に自分を閉じ込めることではないのだろうか。それができなくなったとき――時間はどうしようもなく流れていくものなのだから――そのとき、加藤はどうするのだろうか?
 いや、考えすぎだ、と翠は思う。加藤は若さの持つ美しさと、それに対する過剰な自信――傲慢で、同時に崇高な自信――に満たされているだけなんだと、翠は思うことにした。そしてそれこそ今のわたしがなくしかけているものなのかもしれない、と。  p.305

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