川端裕人『エピデミック』

 現代の生活において、人々は生き物を意識から排除しすぎる。実際のところ、この世は「人間以外」の生き物に満ちている。都市では、そこから目をそらして生活するシステムが出来上がっているだけのことだ。獣医師であり、また、一時は動物園への就職も考えた仙水にしてみると、ヒトを中心にした世界観はなじめない。考えてみれば、人間だって動物なのだ。男も女も、大人も子どもも、みんなそうだ。  p.229

「ほんと、どこから来たのかしら」久子はつぶやいた。
 島袋が、驚いたふうにこちらを見た。そして、低い声で「そうですね」と応えた。
「わたしたちは、また蛇口をひねり……あわよくば、元栓を閉める。それを延々と続けるんです。科学というよりも、探偵ですね。でも、やっぱり……」
 一度、言葉を切って、小さくうなずいた。
「やっぱり、それが手持ちの中で最良の武器なんです」
「小さな雪平鍋しかなくても、工夫して、大人数のカレーを作るみたいなものね……」
 島袋が小首をかしげた。  p.506〜507