山崎ナオコーラ『カツラ美容室別室』

「あれも見てください。あれ、影」
 上から灯りで照らされて地面に花の影が落ちていた。風が吹くと淡々と揺れる。
「影の桜もきれいですね」  p.17

…もっと話したいな、二人でもっと話してみたい。エリもきっとそう思っている。そんな気がする。そう思った途端、体がじわっと熱くなる。こんな感じは、恋の始まりに似ている。しかし、似ているだけで、きっと、実際は違う。  p.18

 もう一度会ったら、何かが始まるような気がしている。真っ暗な甕の中を覗いているような気持ちだ。水が入っているのか、入っていないのか。目をどれだけ凝らしても、闇しか見えない。  p.40

 エリに対する過剰な思いが溶けていく。  p.69

 一ヶ月以上会わないでいると、エリへの気持ちが発酵していく。恋愛感情に、ではない。知り合いへの、深い情に。  p.94

 男女の間にも友情は湧く。湧かないと思っている人は友情をきれいなものだと思い過ぎている。友情というのは、親密感とやきもちとエロと依存心をミキサーにかけて作るものだ。ドロリとしていて当然だ。恋愛っぽさや、面倒さを乗り越えて、友情は続く。走り出した友情は止まらない。  p.146