柴崎友香「主題歌」(『主題歌』講談社 収録) 

女の子を見るのが好きなのは、男性俳優やジャニーズ事務所の誰彼が好きだというのと同じことなのか違うことなのか、と実加はときどき思う。ほかにもかわいい女の子が好きだという話をする女友達はいるけれど、同性愛というわけでもなく、小田ちゃんは結婚するし花絵も失恋して落ち込んでいるし、男が嫌いとかいらないとかでもない。ただ、かわいい女の子やきれいな女優を見ていると、それだけで幸せな気持ちになれるし、そのことについて話すのが楽しい。男の人だって、松田優作やサッカー選手について熱く語るから同じようなもんなんかな、とも思うし、最近自分の周りにかわいい女の子が好きな女の子が多いのは、なんか理由があるんやろか、と考えてもみる。けれど、もともと女の子を眺めることを特別なことだと思っていなかったし、結局は理由があってもなくても「だってかわいいねんもん」という一言で、自分の単純な気持ちを分析するのをやめてしまう。そして、なんでもかんでも「かわいい」ですませてしまう自分たちのことを、もどかしく思ってもいた。  p.45〜46

 小田ちゃんたちを祝うために集まった大勢の拍手の波につつまれながら、実加は、歌はこうやって歌われるもんなんだと思った。彼女が作ったほんの短い歌は、とてもいい歌だって、わたしにはわかるし、ここにいる人はみんなそう思っていると思う。テレビやラジオで流れたりすることはなくて、誰かにお金を出して買われることもないだろうけど、彼女の歌が素晴らしくて、ここにいる小田ちゃんの友人たちがこの歌を心からいいと思ったから、それでいいと思った。この歌がここで歌われたことは消えてしまわない、と実加は、自分でも不思議なくらいはっきりと強く思った。  p.128