多崎礼『<本の姫>は謳う』2巻 C・NOVELS Fantasia

 心の底に波紋が広がった。心を震わせる悲しい和音。まるで音叉のように、俺と彼女の感情が共鳴する。
 それは孤独。大切なものをなくした悲しみ。
「そうか」
 彼女は手を回し、ぎゅっと俺を抱きしめた。
「お前も、そうだったのか」  p.85〜86

「人は誰であれ、何かを恐れ、不安におののきながら生きている」
「――……」
「だがそれを言い訳にするな。最初から強い人間などいはしない。私とて、すべてを知るのは怖い。けれど私は、もう後悔しないと決めた。失ったものを嘆き悲しみ続けるくらいなら、今ここで傷を負い、血を流した方がはるかにマシだ」
 そうだ――その通りだ。
 姫の言うことは、いつも正しい。  p.170

「それはあり得ない。文字(スペル)を集めるには、代償として血と汗を支払わなければならないのだ」
 そう言って姫は、独り言のように呟いた。
「これは――贖罪なのだからな」  p.180

 アンガスが封印してきた過去との対峙、そして決別。二つの物語が一つに繋がり、すべての謎が解き明かされるまであとちょっと。