魚住直子「囚われ人」(『ピンクの神様』講談社収録)

小さな世界で生きている人の悩みを、軽蔑する人がいる。もっと大きな世界で体を張って生きていると自負してる者たちだ。その者たちは、閉じられた小さな世界に住む者の悩みなんて、とるにたりないことだと信じている。
 でも、と典子は思う。そういう人達だって永遠に大きな世界にいるわけじゃないだろう。自分が閉じられた小さな世界の住人になったときでも馬鹿馬鹿しいと言い切れるのか。
 お願いだから、馬鹿にしないで聞いてほしい。三分間でいい。それだけで、どんなに楽になるだろう。  p.141

「卒業」「首なしリカちゃん」「ピンクの神様」「みどりの部屋」「囚われ人」「魔法の時間」「ベランダからキス」の7編収録。