小路幸也『残される者たちへ』小学館

 きれいなんだ。本当にきれいなんだ。
 トトロみたいな野山じゃなくこんな寂れていく都市の風景が、俺の故郷なんだ。そしてそれを美しいと思うんだ。心からそう思う。  p.13

「あまり悩まなくていいと思うんだ。きっとそれは幸せな印なんだ。みつきがこの先の人生で、素晴らしい毎日を送れるためのオマモリみたいなものだ」  p.229

 この世界は、人間が作り上げてきた街は、いろんなカタチで満ちている。人間が美しいと思うカタチで、満たされていっている。
 家も、ビルディングも、自動車も、歯ブラシも、鉛筆も、コンピュータも、消しゴムも、メガネも、本も。
 人間が美しいと思うカタチがモノになって、溢れていく。  p.230〜231

 始まりは方野葉小学校の同窓会での再会だった。“方野葉団地で過ごした子供時代の親友で幼馴染の記憶だけが欠落してしまった男”と“事故の際、自分を庇って亡くなった母親の記憶を持つ方野葉団地に住む少女”。なぜ二人の記憶の混乱は起こったのか、魅惑的な謎で最後まで引っ張る引っ張る。途中、不可思議な落下事件に人によって見えたり見えなかったりするアザの問題が加わり、ますます謎は深まるばかり。一体何の為にそんなことが?ミステリ?サスペンス?それともホラーなのか?と思いながら読むと、、、、、、orz。この作者らしい優しさが随所に見られるいい話だとは思うけど、肝心の明かされた真相に説得力がなく説明不足だし、記憶の混乱については説明されたものの、一番のキモがうやむやで終わってしまったような。もやもやもや。
 デヴュー作を連想させる郷愁漂う団地物語。作家としての成長が見られるだけに、残念だった。