蜂飼耳『転身』集英社

 動きそうで動かない。転がりそうで、転がらない。琉々は、いくつもの眼に見つめられている気がしてきた。マリモには眼はない。藻なのだから。けれども、この丸さとしてここに在るという存在感の奥には、眼が感じられるのだった。なにか、深々とした視線のようなものが。  p.19

 琉々は、うっすらと感じる。パソコンの世界がヴァーチャルなものだといっても、気づいてみれば、紙でできた本の世界もまたヴァーチャルな世界を積み上げてきたのではないのか。本を読まないといけない、というけど、もし本ばかり読んでいる生活ならば、それはそれでかえって現実と遠ざかることになるのではないか。読むことが好きだったが、よく考えてみると、本や文字に、自分の時間を吸い取られてきたともいえるのだった。けれど、そう思ってみても、それ自体なにかの言い訳に過ぎない気もするのだった。  p.22〜23

 自分が所属する場所を探す琉々の旅、だったような気もする。相当にヘンで不思議な、でも幻想的で魅惑的なお話。