柳広司『虎と月』理論社

 けれどぼくは、この旅の前と後で、自分がすっかり変わったことに気づいていた。
 ぼくは、父には合えなかったが、父がなぜ虎になったのか(ここまで傍点)その謎を自分で解き明かしたのだ。
 それは、ぼくがこれからの人生を生きていくために必要な、自分なりの真相だった
。  p.242

 こんな言葉を聞いたことがないでしょうか?
 ――これまでに書かれたすべての物語は、互いに響きあっている。
 耳を澄ませてみてください。 
 きっとどの作品の中にも、これまでに書かれた別の作品の響きを聞くことができるはずです。
『人虎伝』から生まれた『山月記』。
 その『山月記』から生まれた『虎と月』が誰かと“仲良く”なり、さらに新たな物語を生み出してくれることを、作者としていま、夢想してやみません。  p.248〜249(あとがきより)

 中島敦山月記』に想を得た作品で、後日談という体裁の物語。「なぜ虎になったのか」の解釈はもちろんのこと、作品同士が共鳴し合う様が素晴らしい。これだけ読んでも楽しめると思うけど、先にやっぱり『山月記』を読んでから読んだのが楽しめると思う。