クリス・クラッチャー『ホエール・トーク』青山出版社

小学校で、肌の色の違いは、祖先が大昔にどこからやってきたかの違いにすぎないと知ったとき、こう思った。人種差別主義者ってのはよほどのばかか、劣等感のかたまりで、いつもだれかを見下してないと安心できないやつばっかりなんだ、と。自分にそういいきかせれば、たいていは気がおさまる。  p.8

 父さんはいつもいっていた。この世に偶然の一致なんてない。つながりのありそうなふたつの出来事は、本当につながっているんだ。必然と考えろ。  p.14

 すべてはつながっている。  p.75

「今シーズンの目標は?」先生はいった。
「できるだけ速く泳いで、金メダルをとることです」
「それだけか?」
「虐げられし者にスタジャンを。それも全員に」  p.107

 最高だ。モットが実際に現れるまで、『荒野の七人』の構成メンバーは、有色スイマー、秀才代表、鈍才代表、筋肉マン、巨漢、カメレオンマン、そして精神異常者だと思っていた。ところが実際は有色スイマー、秀才代表、鈍才代表、筋肉マン、巨漢、カメレオンマン、そして義足の精神異常者だった。この七人がずらりと並んで、ブルーとゴールドの聖骸布に身を包み、カッターの校内を歩きまわるなんて、考えただけでわくわくしてくる。  p.111

クジラは言葉を選んだりしない。思ったことをそのままいってしまう。雄のクジラが浮気をすれば、妻は苦しみと怒りと絶望に満ちた声をあげ、声の届く範囲にいるすべてのクジラがそれをきいて、理解する。交尾の喜びも、子どもを失った心の痛みも、みんなに伝わり、理解されるんだ。食う者も食われる者も同じ声だ。マザー・テレサのようなクジラにも、ジェフリー・ダーマーのようなクジラにも、いいたいことはあるはずだ。クジラは真実しか語らない。自分とは何者か。その正確な答えをすぐに知りたければ、クジラになるしかない」  p.168

「ちゃんと叱っといてね」クリスはいう。「あんなこというなんて、ひどいよ」  p.260

好悪の感情を超えて、物語が持つ圧倒的な力に打ちのめされる。テーマは重くて重すぎるものの、テンポよく軽妙な語り口で語られるスタジャン獲得の行方が気になって、つい引き込まれて一気読み。仲間達を思いやる気持ちにとにかく泣けた。とってもステキでいかした青春小説でオススメ。