平田俊子『さよなら、日だまり』集英社

 裁判官や弁護士にはありふれたことでも、わたしにとっては初めてのことだ。結婚にとって離婚は死だ。簡単にそのときを迎えてはいけない。たくさん苦しみ、ぼろぼろにならなければいけない。  p.141

幸せが日だまりになってこの部屋を守ってくれている。夫と暮らしているとき、わたしはそんなふうに思った。日だまりの中にいると気持ちが安らいだ。日だまりは優しくわたしを抱きしめてくれた。この部屋の一番いいところは、広さでも静けさでもなくて、南に面した大きな窓辺に日だまりができることだった。
 日だまりをわたしはここに置いて行く。この先、わたしの前に日だまりは二度と現れないだろう
。  p.144