鹿島田真希『ゼロの王国』講談社

「おお、その通りです。僕は自分が太陽に愛されているように、自分も人を愛そうと思っているのです」
「あなたはまだ人の愛というものを知らないのね。ああそうね。だってあなたは孤独を覚えたことがないんですもの。おばあさんと自然に愛されて、それで満たされてしまったのですからね。おばあさんの愛情もきっと太陽のようなものだったのでしょう。あなたは今も昔も心のきれいな人ね。だけど人間の愛というものは、そんなにきれいなものではないし、太陽のように平等なものでもないわ。エリさんは気づいているのよ。あなたの愛が日光のように降り注いでいることを、それが焦げるような人の愛ではないということを。  p.199

ねえ、小森谷さん、人の愛というものは、年を重ねるたびに汚らわしくなっていくものだとは思いませんか。それなのに、この人はなんて幼く、そしてなんて高貴なのでしょう。こうして人はいつも、この人を愛してしまうのですね。この人は無条件の愛しか知らない、無条件に美しい人間ですものねえ」  p.246〜247

皆、あなたの優しさに騙されてしまうものね。きっとあなたは自分中心の人。自分の心が豊かであるなら、それだけで満足な人。他人の心が豊かであるかどうかなんて、関心がない人なんでしょう?  p.525

あなたは愛を与える人。それだけではないわ。愛というものを分け与えることができる人よね。色々な人を愛して、そして、色々な人から愛される。あなたはそういう人ですものね。  p.570

 愛について、結婚について、自殺について。ディスカッション。会話劇。求める愛の違いに苦しむエリ、ユキ。吉田青年は「愛」を知ることができるのか「女性」というものを理解できるのか。吉田青年を頂点とする二組の三角関係の行方は?下敷きになった「白痴」を読んでから、この作品を再読してみたい。