スーザン・プライス『ゴースト・ドラム』

 カシの木のまわりを歩いているのは、金色の鎖のはしにつながれた博識にして博学の猫。その猫が歩きながらかたるのが、この物語。  p.14

 カシの木のまわりをぐるぐる歩きまわり、幹に金の鎖を巻きつけながら物語をかたるのは一匹の猫。  p.40

 金の鎖のふれあう音にあわせてこの物語をかたるのは、一匹の物知りの猫。  p.58

 カシの木のまわりをぐるぐるまわっているのは猫。この猫がかたるのが、この物語。  p.80

 その木のまわりをまだまわり続けているのは、物知りの猫。金の鎖も、まだまだ長い。  p.97

 金の鎖につながれて、木のまわりをまわりながらかたっているのは、一匹の猫。  p.118

 物語をかたりながらカシの木のまわりを歩いているのは、物知りの猫。  p.139

 木のまわりをぐるぐるまわっているのは、一匹の猫。草を踏んでいるのは、そのボタンのようなかたい足。  p.147

 さあ(と猫はかたる)、これからまたチンギスのことを話そう。  p.152

 猫は木のまわりを歩きまわるのをやめ、すわって、足をなめている。  p.165

 もし世界から皇帝というものがひとりもいなくなったとしたら、どうなるだろう。そのときには、残った者たちの中でもっとも貪欲で、もっとも冷酷で、もっとも人を信用しない者が自分のことを皇帝と呼ぶようになるだろうし……ほかの者たちも、そういう人間の好き勝手にさせることだろう。
 だが、われわれが皇帝を愛する必要はないし、われわれが皇帝になる必要もない。  p.204

 もしこの物語がおもしろいと思うなら、ほかの人に話してみるがいいだろう(と猫はいう)。 
 もしこの物語が苦いと思うなら、甘くしてやるがいい。
 だが気にいろうと、気にいるまいと、この物語は持っていってほしい。やがてほかの舌にのって、わたしのところにもどってくるだろうから。

 猫は金の鎖の間にうずくまり、胸の下に脚をしまった。それから頭をあげ、耳を立てて、カシの木の下で眠りこんだ。歌もうたわず、物語もかたらずに。  p.212〜213