畠中恵『こころげそう』

こころげそう 男女九人 お江戸恋ものがたり

こころげそう 男女九人 お江戸恋ものがたり

(色恋は……思いの外だ)  p.43(「恋はしがち」より)

「分かってる。酷いこと口にしたわ。お染ちゃんがうらやましいのよ、あたしは」
 でもねと、宇多をまた睨んだ。
「でも、人の気持ちが分からないのは、宇多の方じゃない。お染ちゃんは好いた相手から、思われているのよ。なのにまだその上、親が賛成してくれないとか、弥太さんが四六時中側にいないとか、色々悩んでる。それを贅沢だと言ってるの。絶対、贅沢よ!」
 お絹はじれたように下駄で地面を少し蹴った。そして涙目で宇多を睨むと、そのまま駈け出してしまった。  p.73(「乞目」より)

 重松がおまつを思い続けても、どうにかなるとは思えない。それでも……いささかつらいのではないか。男と女の気持ちはこんぐらがってばかりで難しいと、宇多は思ってしまうのだ。賽を振るときのように、思う通りの目が出て欲しいと願っても、なかなかそうはいかない……。  p.92(「乞目」より)

 でもねと、お徳は言う。声はかすれて消え入りそうであった。
「どうしても……そうせずには、いられなかったんですよ」  p.133(「八卦置き」より)

 とにかく今は、由紀兵衛を頑張って支えていかねばならない。於ふじに約束したのだから。「ああ」と思う。
「ああ、何て好きだったんだろうか」
 今更のように、そして今でも恋しい。そんな思いが湧く時がある。  p.287(「幼なじみ」より)

 感想はコチラ。それにしても切ない、、、。