小川一水『妙なる技の乙女たち』ポプラ社

 残念ながら、女がいない。だからなんだ?発明は男だけの特権だとでも?
「創ってやる」  p.21(第一話「天上のデザイナー」より)

自分が大きな苦労を強いられている不動産取引という営みが、本質的にまったく生産的ではないということを認めたくなかったのだ。前後の辻褄も忘れてかみついた。若かった。
 笑うしかないが、そのせいで今の香奈江とヴァージナイルがある。そう……神様の造ってくれた土地に、ささやかなりとはいえ、人の手に成るものを付け加える。造成企業。それが、夢と意地から香奈江が築いたものだった。  p.130(第三話「楽園の島、売ります」)

 赤道の空は青すぎて、ほとんどそのまま宇宙だ。  p.152(第四話「セハット・デイケア保育日誌」より)

 ここへ来たかったのだ。  p.210(第五話「Lift me to the Moon」より)

 同じページを何度も繰る彼の姿を見て、麦穂は内心の声を取り消す。
 自分ひとりが来たかったのではなかった。ここにも仲間がいた。  p.211(第五話「Lift me to the Moon」より)

「自分がはっきりするから、だと思います」
 意味を尋ねるように男が目を覗きこむ。息苦しさを覚えながら麦穂は続ける。
「ここは……宇宙は、人間の場所じゃありません。本当なら人の来ないところ。だからこそ、ここに来れば、自分について自覚的になります。なるしかない。どうやって生きてきたのか、なぜここにいるのか、これからどうするのか……自分で決めなきゃ、どうにもならない。立ち止まることすらできない。そういう境遇に、自分を置きたいからだと思います。……地球では、何も考えずに暮らす方法がいくらでもありますから」  p.212(第五話「Lift me to the Moon」より)

「世界全部が間違っていて一人だけ正しいことなんて、あるわけがないと思っていたがな。あんたは例外らしい」
「認める?」
「わからない。でも二人が正しいと思ったなら、正しさは倍だ」  p.286〜287(第七話「the Lifestyles Of Human-beings At Space」より)

「ずいぶん手間がかかるのね」
「地球はそれに三十億年かけたよ」  p.290(第七話「the Lifestyles Of Human-beings At Space」より)