北村薫『野球の国のアリス』講談社

 なんでもわかりやすくして手渡されるより、<<わからない>>という宝物をいっぱいかかえることも<<いいこと>>なのです。そして、自分であれこれ考える。  p.10

「ふん、偉そうだね。」
「だってそうじゃない。――痛めつけられたトマトほど甘くなるんだってさ。」
「人間、甘くなっちゃあいけない。」
「トマトはいいのよ。味が出る。」  p.62

世の中に本当に必要な笑いは、見下す笑いじゃないって教えてやりたいんです。  p.167

そういうのって、残酷だろう。――あれがしたい、これがしたいって、思ってて、――神様からいわれた仕事をいっぱいかかえてたのに、それが出来なくなっちゃうなんて。そいつを、どうすることもできないって。」  p.231

「――あいつ、許せないっ!」
脇で見ていた五堂が複雑な表情でいった。
「……そこまでやられると、俺はなんだか、許せてくるな。」  p.234