京極夏彦「十万年」(『幽談』収録)メディアファクトリー

 僕は何を見ていて、何を信じているのだろう。これが当たり前だと思い込んで、何不自由なく暮らしているつもりでいるけど、それも思い込みに過ぎなくて、ひょっとしたらそれは全然違っていて、世界はもっと激しく歪んでいて、その歪みに気付いていないのは僕だけなのかもしれないのだから。
 一方で僕は、他人の眼で世界を観てみたいと、そんなことも思うのだ。
 他人の眼で世界を観たなら、その人の思い込みは僕にはないから、きっとおそろしく違った景色が視えるのではないだろうか。そんなふうに思う。いや、大きくは違わないのかもしれないのだけれど。  p.176

 「手首を拾う」「ともだち」「下の人」「成人」「逃げよう」「十万年」「知らないこと」「こわいもの」の全8編収録。