本谷有希子『グ、ア、ム』新潮社

 窓際に座った長女は、ぼんやりとまた風土と、その土地柄に染み付く人間の性質について考えてみた。特に答えは出なかったが、こうして女三人一緒に行動してみて、いやが上にも実感する。自分たちがどんなに抗ったとしても、結局は北陸の女でしかないだろうということを。裏日本からは逃げられない。  p.105

 それにしても家族旅行だって、いつ、誰が、どんな目的でするものなのかまったくの謎に包まれているじゃないか――長女も次女も自己嫌悪と肉親嫌悪しか覚えないこの旅の目的をすっかり見失いつつあった。  p.111

たとえば、年下の、ロストしてない世代の彼氏を今から作って結婚とかしたら……得られる?何かを。あたしも便乗しておこぼれを頂ける?  p.116〜117

「あんな快晴、もうたぶん一生見れんのに」
「おかんは、曇っとるくらいのほうが、落ち着くから、大丈夫」 
「……曇天」。長女は枕に半分顔を埋めて、もぞっ、と口にする。その声はもう隣の母親にすら聞き取れないほどのボリュームしかない。曇天は自分も嫌いじゃない、と長女は枕にさらに顔を押し付けて思った。  p.149

 留守番組の男性陣では、父親が一番、いい味出してます。