島本理生『波打ち際の蛍』角川書店

「なんというか、世界の終わりみたいな夜です」  p.43

 信じられないんです、と私は首を振った。強く振った。
「道端でいきなり殴られたり刺されたりしないことを。ホームに立ってて背後から突き落とされないことを。知らない人が、意味もなく私を蔑んだり疎んだりはしないことを。キスやセックスが、私を殺しはしないことを」  p.53

「俺は体形なんてどうでもいいから、よく食って、よく笑う麻由がいいよ」
 その瞬間、体中のすべての力が抜け落ちていった。その一言で、私はたぶん明日もここにいられるだろう、と思った。  p.140

 自分が白線の外側だと、彼は言った。だけど今にも波にさらわれて消えてしまいそうな白線。こちらに気を配っているうちに、運ばれた砂に足をとられて動けなくなりそうに危うい。  p.140

 恋人のDVで心に傷を負い、相談室に通う麻由が主人公。相談室で出会った蛍と交際を始めるものの、まだまだ過去に囚われたまま、頑なになってしまう。危なっかしいながらも心通わせ寄りそう2人を描いた恋愛小説。
 うーんうーん。理生ちゃんのもろもろの体験が反映されている小説なんだろうなあ。文章の描写力など相変わらず上手いんだけど、肝心の内容がなあ。私の心にはあまり響かなかったようだ。
 ハッピーエンド、、、なんでしょうが、とにかく2人とも危うくて脆くて見ていて心配になってくる。麻由ちゃんには蛍よりさとる君のが頼りになるしいざという時の精神的支えになると思うんだけどなあ。ラストで実質的にスタートラインに立ったようなもの。ここからが始まり。どうか2人とも過去から解放され、幸せになってください。