小池昌代「野うさぎ」(『ことば汁』収録)中央公論新社

 長く忘れていた欲望が、わたしの身体のすみずみまでいきわたり、身体じゅうを緑色に染め上げていく。赤い血のかわりに、緑色の濃い血が、身体じゅうに音をたてて流れ始めたようだった。
 森の道は危険だ。ここを歩くと、ときどき、わたしがわたしでなくなってしまう。  p.201