2008-10-29から1日間の記事一覧

小池昌代「りぼん」(『ことば汁』収録)中央公論新社

こんなコレクションを残したことが、ふじこのささやかな復讐に見えた。 p.240

小池昌代「野うさぎ」(『ことば汁』収録)中央公論新社

長く忘れていた欲望が、わたしの身体のすみずみまでいきわたり、身体じゅうを緑色に染め上げていく。赤い血のかわりに、緑色の濃い血が、身体じゅうに音をたてて流れ始めたようだった。 森の道は危険だ。ここを歩くと、ときどき、わたしがわたしでなくなって…

小池昌代「すずめ」(『ことば汁』収録)中央公論新社

ここへ来ると、いろいろな欲望が、あらわになる。もし、わたしの欲望が、ほかのひとに見えたら、どれほど醜悪に見えることだろうと、よけいなことまで、思っておそれた。 p.100

小池昌代「つの」(『ことば汁』収録)中央公論新社

たしかに先生の詩はもうすでに「息」であった。何か書けばそれがそのまま、吐く息である。もう、そこには言葉があるという感じすらない。 読んでいると、わたしはただ、おいしい空気を吸っているような気分になったものだ。どこにもあざといところはなく、技…

小池昌代「女房」(『ことば汁』収録)中央公論新社

「人を殺すと、夜の森が見えるのね」 「違うだろ、夜の森を見たんだろ」 「見たというより見えたのでしょうよ。それは心象の風景じゃないの?自分の心が、そっくりそのまま、自分の外側に見えたんだわ。怖かったでしょうね、さびしかったでしょうね」 p.13