山本弘『詩羽のいる街』角川書店

「マンガもライトノベルも立派な読書ですよ」明日美さんは優しく微笑んで言った。「どんなジャンルでもそうですけど、駄作や凡作もあれば、傑作もいっぱいあります。そういうのを見つけ出すのが楽しいんです」  p.53(「第一話 それ自身は変化することなく」より)

「この子はね、触媒なの」p.102(「第一話 それ自身は変化することなく」より)

「 それが詩羽。他人の秘めた可能性を見つけ出して、それを引き出す。自分は変わらずに、他人をどんどん変えていく」
「……僕も変えられました」
「あたしもね」  p.102(「第一話 それ自身は変化することなく」より)

 あきらめちゃいけない。無理と思えることも、思いきってぶつかってみれば可能になる。詩羽はそれを実践してみせている。
 不可能を可能にする――まさに奇跡。
 僕は奇跡を信じて生きてみようと思う。  p.103(「第一話 それ自身は変化することなく」より)

「あたしには生きがいなんてないよ」
「うん、分ってる。だから死ぬんでしょ?」
「なら、どうしてあたしにつき合うの?」
「それは、これがあたしの仕事だから」
「仕事?」
「人に親切にするの。それが仕事」  p.143(「第二話 ジーン・ケリーのように」より)

「何もしないで、世界に負けると思ってる。世界を変える力なんか自分にないんだと思いこんでる。そんなことはない。まず『世界を変えてみせる』って思わないと、世界は変わらないよ」
「そんなことできるの?」
「あたしはやってる」  
 彼女は眼下に広がる賀来野市を手で示して、誇らしげに言った。
「世界って言っても、この街だけだけど。それでもあたしの行動範囲、あたしの目に入る範囲は、着実に変えていってる。あたしに関わった人は誰も、不幸にはさせない。あたしの力で幸せに変えてゆく」 p.181〜182(「第二話 ジーン・ケリーのように」より)

「そう思われるのは、先生がまだこの趣味の楽しさに目覚めてないからですよ――人に親切にすることの楽しさに」  p.224(「第三話 恐ろしい「ありがとう」 」より)

ほんのちょっと生き方を変えさえすれば、もっと幸福になれるということを。
 人と人とのつながりは素晴らしいということを。  p.268(「第三話 恐ろしい「ありがとう」 」より)

「ダメじゃない。力作だとは思う。好きになる人がいるのは当然でしょうね。でも、私の求めるマンガじゃない」
「求めるマンガって、お気楽なマンガですか?」
「希望の持てるマンガよ」  p.316(「第四話 今、燃えている炎」より)

「過去は忘れた方がいい?」
詩羽はうなずいた。「大切なのは現在と未来ですよ」
「やっぱり楽観的なのね」
「悲観的なことばかり見てると悲観的になっちゃいますよ。現実から目をそむけちゃいけないけど、いい面もちゃんと見ないと。それこそ現実逃避です。(以下略)」  p.350(「第四話 今、燃えている炎」より)