沢村凜『笑うヤシュ・クック・モ』双葉社
この人たちは、いっしょにいる人間のことを、どれだけ知っているのだろうか。いっしょにいる人間のことをどれだけ知っているかと、不安になることはあるのだろうか。 p.190
確かだと思っていたものが、つかもうとすると消えてしまった。何かがねじれている気がする。もしかしたら、すべてが。
(俺はまだ、歌舞伎町で迷い込んだ不条理の世界を、抜け出せずにいるんじゃないだろうか) p.214
これは、愛想笑いでも、状況をおもしろがっているのでもない。日本人は、混乱すると笑うんだ。昔から、驚きや怒りや悲しみを露骨に表現しないように教育されてきたから、混乱していて、でも外面を取り繕わなきゃならないときには、笑うしかなくなるんだ。 p.239
何かに深く関わることには、多少の苦労やマイナス面がつきまとうものなのに、そういうものからは目をそむけたい人なんだ。 p.257
だけどな、人はみな、そんなふうに、何かから勇気をもらっているんだ。おまえから見たらどうでもいいことや、ちっぽけなことが、死ぬほど大事だったりするんだ。だけどそんな気持ちは、おまえには絶対にわからない」 p.284〜285
だけど、そんなことは考えてもしかたのないことだ。人間は、いろいろなことをしたり、しなかったりしながら生きている。時には飛行機をキャンセルしなきゃならないし、時には家族の行事を欠席して、仕事に行かなきゃならない。その結果が別の結果につながって、<風が吹けば桶屋が儲かる>式に思いもよらないことが起こっていって、この世界は紡がれていくんだ。出来事の連鎖の一つの輪を取り上げて、この輪がなければと悔やむのは意味がない。そんなことは、あのあとさんざん考えた。だから、いやというほどわかってる p.289
世の中に、変わらないものはない。特に、人と人との関係は、時とともに変化していく。ほんとうにいい時期なんて、一瞬なんだ。だけど、その一瞬が胸に残っていれば、次の一瞬を目指してがんばれる。そして写真は――記念写真の類を、俺はずっとくだらないと思っていたが――楽しかった一瞬を忘れないでいるためのツールなんだ。だから俺は、取り戻したかった。五人で撮った集合写真を。 p.305
皓雅、栄司、昇平、利男、大樹。