絲山秋子『ばかもの』新潮社

「額子って、終わったあとの方がかわいいよな」
額子は突っ伏したままのくぐもった声で言う。
「ばかもの」 
 p.23

額子はすぐに俺のことを忘れてしまうだろう。俺はいつまでも額子のことを覚えているだろう。  p.43

 失い続ける。なにもかも失い続ける。得たものなんて何もない。
 だけど他人が羨ましいということもないのだ。有名になるとか美人の嫁さんをもらうとか子供が天才とか、そういう人生を過ごしたいとも思わないのだ。
 淡々と生きていけたら俺はそれでいいんだが。
 ただ、友達が減ってくってことはたまらなく切ない。  p.121

「来たら、養子にしてやるよ」
樹上から額子がせせら笑う。
「大人になるまで面倒見てやるよ」
「ばかもの」 
 p.171