村田沙耶香「ギンイロノウタ」(『ギンイロノウタ』収録 新潮社)
価値が低いなら私は安さで勝負するしかない。
私は誰よりも私を安く売るんだ。そして誰よりも喜ばれて見せるんだ。女の子達の甲高い笑い声が鳴り響く教室の中で私は、そう強く、胸に誓っていた。 p.133
濃度の薄い絶頂が、文字を書いている間ずっと、下腹の中で生き物のように蠢いていた。 p.182
これは自分の歌なのだ。そのとき突然、頭蓋骨の中でその言葉がはじけた。
卑屈な産声をあげたあの日から、私の中でずっと渦巻いていた言語が、歌になって外へ流れだそうとしているのだ。
私は心臓を演奏するのだ。この手で、肉体を、体温を、演奏するのだ。 p.202