連城三紀彦『造花の蜜』角川春樹事務所

「造花でも本物の蜂を呼び寄せることはできる」  p.126

 どんな人間にも、見かけとは違う中身がある。誰もが何らかの嘘をつき、自分を飾っている。  p.273

 

 彼女は、それを本物の花だと言ったが、生きた花に薬品処理をほどこしたミイラのような花が、彼の目には造花にしか見えなかった。ただ、先刻、便箋の終わりに黒いしずくの跡を見つけた時、彼にはそれが、あの花がミイラになる直前にしぼりだした生きた蜜の、最後の一滴だという気がしたのだった。  p.412