ドナ・ジョー・ナポリ『わたしの美しい娘』ポプラ社

このリュートは魅力的だ。ひとりの女が娘のために買い求め、それを娘がその娘に与え、それがそのまた娘に渡る。母がわたしにバイオリンをくれて、それをいつの日かわたしがツェルに与えるのと同じだ。このリュートは一家の歴史をつないでいく。わたしのバイオリンのように。美は受け継がれていくものなのだ。  p.25(母)

 わたしたちはいっしょ。母とツェル。このまま永遠に。  p.31(母)

塔のまわりは危険が取り囲んでいる。それを忘れてはいけない。  p.151(ツェル)

「今に敵を探すのにうんざりするわ。ここに来たとき、かあさんぐったりしてたもの」
「わたしはうんざりなどしませんよ、ツェル。おまえを永遠に守るんだから」
 その言葉を聞いてツェルはぞっとした。秋風よりも、母がこれまで語ってきたどんな言葉よりも、ツェルは寒い思いがした。  p.154(ツェル)

ほしかったのはただひとつ、人生の中で輝くダイヤモンドのかけら――娘。自分の娘。愛し、抱きしめることのできる娘。大事に育てることのできる娘。  p.170(母)

「動物をむりやり思いどおりにする力って意味じゃないでしょ?そんな力、だれもいらないわ。自分の思いどおりにできる動物なんてそばにいるのもいやよ」ツェルの目には嫌悪感のようなものが見えた。  p.186(母)

その瞬間、わたしは知りたいとも思わなかったことを、いや絶対に知りたくなかったことを知ってしまった。この男はわたしの心の友――わたしのツェルを愛している男なのだ。だめ!わたしはなんてことをしてしまったのだ? こんな世の中、間違っている。  p.169(母)