千早茜『魚神』(いおがみ)集英社

 この島の人間は皆、夢を見ない。
 島の中ほどにある小さな山の上に朽ちかけた祠があり、そこに棲む獏が夢を喰ってしまうのだ。島に住む人々の心は虚ろで、その夢はあまりにも貧しいため獏はいつも飢えていて、島の灯りに惹かれ訪れた客人の束の間の惰眠ですら、その餌食になってしまう。
 でも、私は知っている。獏などいないことを。
 そのせいかは分からないけれど、私は月に一度夢を見る。  p.3