坂木司『夜の光』新潮社

「昼は他人で、夜は仲間。これってかなりスペシャルな感じがしない?」  p.23「季節外れの光」

 じっと眺めていると、自分に向ってぐわっと迫ってくるほどの星空。むっと立ち上る草いきれ。虫の声。仲間の気配。
 世界が、くるりと完璧な円を描いた瞬間。今なら俺、ちょっと死んでもいいかもなんて思う。
 あ、でもその前に一つ足りないものがある。


     *


「やっぱり、ギィのコーヒーが飲みたい」  p.91「スペシャル」

 青春。嫌っていうほど聞き慣れた単語だけど、いったい青春っていつから始まっていつ終わるものなんだろう。少なくとも、私は今自分が青春まっただ中とは思えないんだけど。  p.144「片道切符のハニー」

「自分が特別でありたい。誰にも似ていないことをしたい。でもそれって特別じゃないからこそ、そう思うんだよね。皮肉なことに」  p.314「それだけのこと」

「……特別だよ」
 ブッチの背後に佇むギィが、ぽつりとつぶやく。
「あんたは私の特別。ジョーもブッチも特別。この夜も特別。それでも文句があるなら、ここで言ってみな!」
 誰かを特別にするのは、その人を特別だと思う人の存在。ならば私たちは、きっとものすごく特別な存在だ。
 家族にも友人にも見せたことのない顔。それを分け合うのは、同じ戦場を経験した者たち。  p.315「それだけのこと」